四方章敬 × ブリティッシュメイドの「マルチパックTシャツ」開発秘話を公開
BRITISH MADE
Fashion
ブリティッシュメイド オリジナル「マルチパックTシャツ」が販売中です。
実はこの「マルチパックTシャツ」、生産に至るまで、今までにないほど紆余曲折がありました。
今回は舞台裏となる開発秘話を公開!メンズアイテムのデザインを監修いただいているスタイリスト 四方章敬さんとブリティッシュメイドこだわりのアイテムが、いかにして生まれるのか。そのプロセスをお届けします。
PROJECT MEMBER
スタイリスト 四方章敬さん
「LEON」「MEN’S EX」「Men’s Precious」「THE RAKE JAPAN」など、ラグジュアリーメンズファッション誌で活躍中の四方章敬氏。イギリスの洋服に詳しいだけでなく、洋服が持つディテールとその背景を熟知し、現代のファッションにまで精通するスタイリストです。
ブランドPR 坂本竜
ブリティッシュメイドの前身ディセンタージュの販売員を経て、2013年よりプレス。現在ではジョンストンズ オブ エルガンやグレンロイヤルといったイギリスブランドのPRを行う傍ら、ブリティッシュメイドのオリジナルコレクションの企画も行っている。
きっかけはレイヤードのベストバランスを追求した白Tから
今回、新登場する「マルチパックTシャツ」の開発背景にあったのは、春夏にシャツをジャケット感覚で取り入れるスタイリング。インナーの白Tをあえて見せることで軽快さと、どこか清涼感を演出できるこのスタイリングは、ブリティッシュメイドのシャツを使って四方さんも提案していました。
四方章敬さん(以下、四方さん):白Tはマスターピースと呼べるほどの大定番アイテム。僕自身、強いこだわりをもっています。だからこそ、スタイリングをする上で(もう少しこうだったら……)と細かなディテールに悩みを感じることが多々あります。
スタイリングによって白Tを使い分けるほど、白Tに愛着を持つ四方さん。レイヤードした際に、白Tを少しだけ見せて抜け感を演出できるものがベストながら、そのバランスを既製品から探すと、骨が折れる。そんな黄金比を求めて開発をスタートしたのが本作「マルチパックTシャツ」です。
パックTシャツという絶対的なマスターピースアイテムに
「ありそうでない」エッセンスを加える
“パックT”と聞くと、一般的には同じ素材とデザインでパッケージされたものや、アメリカブランドのものが王道ですが、現在市場にはドメスティックブランドのものやハイブランドの高級パックTと呼ばれるものまで群雄割拠にパックTが犇めき合っています。様々なパックTをリサーチすることと自分たちの作りたいものを整理していく中で辿りついたコンセプトが「マルチに使える」というポイントでした。
四方さん:2枚別々でも着れるし、セットでも着れる、そんなパッケージのTシャツはどうでしょう。インナー用、アウター用をそれぞれ単体で成り立つコンセプトで作成しつつ、レイヤードした際にベストバランスとなる、僕がこだわる白Tの見え方も、これなら解消できそう。
PR 坂本竜(以下、坂本):良いですね。スタイリングの幅も広まりますし、セットで着る楽しみもできる、新しい提案のパックTとなりそうです。
四方さん:さらに、パックTなのでパッケージにもこだわりたいところですが、ビニールの袋のデザインにこだわるのではなく、スタイリングの幅を広げてくれるコットンチーフをパッケージ代わりに作成するのはどうでしょうか。例えば店頭でコットンチーフを風呂敷の様に使い、Tシャツを包んでいただくことでパッケージとしてのインパクトもありますし、英国に由来する柄や配色にすれば英国感もプラスできる。そしてスタイリングの際にTシャツと合わせてネッカチーフやポケットチーフとして使うことができれば2枚のTシャツをレイヤードした際にさらにスタイリングの幅を広げてくれるはずです。そうすることでこのパックTならではの魅力を生み出すことができるのではないでしょうか。この3つがセットになって、スタイリングにフォーカスしたパックTというのは新鮮な気がします。
坂本:面白いですね! パックT全体のコンセプトはそれでいきましょう! そして各アイテムのコンセプト詳細も詰めていきましょう! なんか楽しくなってきましたね!!
[インナーTのコンセプト]
インナーとしての着心地を追求しつつ、下着にならない絶妙なバランス
インナーTに求められたのは着心地が良いこと。素材はもちろん、縫製も考慮し、快適さを優先するよう方向性を定めました。また、シャツをジャケット感覚できた際は中に着るTシャツの見える面積も広くなるので、薄いけれど透けすぎない、タイトに作りすぎない理想的なバランスをイメージ。完全な下着ともアウターとも違う絶妙なサイズ感を狙います。
四方さん:脇に縫い目が無い丸胴にするなど、着心地はとことんを考えたいですね。ネックのバランスも緩すぎず、つまり過ぎず……きれいなラインが良い。ネックの角度、リブ幅にもこだわって理想的なものを目指します。
[アウターTのコンセプト]
1枚で様になり、大人が着られるTシャツ
アウターTのコンセプトは、一枚で様になる、子供っぽく見えない、スタイリングで応用がきくTシャツ。今着たいと思えるサイズ感や、主張しすぎないが程よいアクセントとなるデザインなど、大人らしさにこだわった見え方を目指します。
四方さん:シルエットはレイヤードを想定して、今っぽい少しゆとりがあるけど、オーバーすぎないバランスに仕上げたいですね。裾にリブを取り入れるのはどうでしょう?リブも上品な印象になる様に幅など考えて仕上げていきたいです。また、裾のリブを身幅に対して少し小さく作ることでリブを付けた際にニットの様なラインを出したいなと。 ストンと落ちるよりも裾がニットの様に少し締まることで『アウター』らしい印象に持っていきたいです。
四方さん:袖はかなり悩みますね……。一般的なセットインスリーブにして肩を落としてしまうと子供っぽく見える可能性もありますよね。また、袖付けはリブとともにアウター感を演出してくれるディティールにしたいです。セットインラグラン、ラグランスリーブ、サドルショルダーなどが候補に上がりますが、1stサンプルではサドルショルダーを試してみましょう。サドルショルダーは英国のニットウェアで見ることが多いのでアウター感と英国感が良い方に出てくれれば良いのですが。
[セットで着た時の理想系]
それぞれ単体で、完成品でありながら、セットで着ることを想定したインナー、アウターT。そこには、スタイリストらしい、突き詰めたこだわりがありました。
四方さん:ネックと裾はインナーの白Tが少し見えるくらいのバランスにこだわりたいですね。ベストバランスはジャケットからシャツのカフが見える様な感覚で1cmくらい。Tシャツなので袖はあえて出さないのが良いと思います。こういった見せたい部分と見せたくない部分などレイヤードした際の見え方やサイジングを考慮して作れるのが良いですね。
[コットンチーフについて]
「マルチパックTシャツ」と名付けたアイテムの中でも、ひときわ斬新さを放つコットンチーフというアイデア。ここでこだわったのはサイズ感と素材感、そして英国らしさ。
四方さん:サイズ感は一般的なポケットチーフよりも大きめに設定しましょう。アクセサリーとしてはネックチーフでも使えて、Tシャツ2枚が包めるくらいのサイズ感でパッケージ的な使い方もできると良さそう。大体50数センチでしょうか。旅行に持っていくときに使っても良いですね。ネッカチーフが直接肌に触れるので肌触りも考慮して素材は選びたいです。また、柄をタータンベースにすることで英国感をプラスするのはどうでしょう。
コンセプトを具現化するための下準備
コンセプトが決まったら、理想を具現化するための素材やパターンに関して打合せを進めていきます。生地選び、サイズ感の設定、そして色使いなど。Tシャツ2枚とコットンチーフ1枚ですが、通常の服作りよりも数倍の作業となりました。
[生地について]
インナーTには、20番手単糸の天竺編みでタッチが良いコットン素材をチョイス。通常のTシャツよりも太番手を用いることで、透けにくさを考慮。
四方さん:インナーに着ることがメインのTシャツとはいえ、一枚にならざるを得ない時って春夏はありますよね。そんな時にも恥ずかしくない、透けにくさも考慮して作りたいです。
アウターTには、40番手双糸で編み立てた天竺素材をチョイス。程よい厚みとハリがあり、アウターとして十分なボリューム感がありながら、繊細なコットンを双糸使いにすることで、きめが細かく快適な肌触りに。
四方さん:グレーかネイビーで非常に迷いますが……今回はこの濃紺にしましょう。他のブリティッシュメイドのアイテムとも一番合わせやすいし、白Tがより際立つはず。
コットンチーフには、40番手単糸のガーゼ生地をチョイス。ブロードに比べて薄く柔らかい素材感です。
四方さん:このガーゼ生地なら、ネッカチーフとして巻いたときに肌触りもなめらかで良いし、ポケットチーフとして使った時にサイズはやや大きめですが、薄い分、かさ張りにくくなるというメリットがありますね。
具現化した1stサンプル
全体のバランスとこだわりポイント中心に修正
全体の構想を決め、具現化された1stサンプル。カットソーのため、スペックが異なって仕上がってくる部分もあり、ここではデザイン、全体のサイズバランスやこだわりポイントを中心に詰めていきます。
四方さん:レイヤードの肝と言えるネックバランスから見直していきましょう。インナーの白Tは天巾を5mm広げて、前下がりは5……いや7mm下げます。アウターTも同様に天巾5mm、前下がりは1cm下げます。ネックのリブ幅は小さめの2.2mmに設定しましょう。またアウターTのデザインポイントとなる裾のリブ幅は3㎜短くしましょう。因みにインナーTのネックリブってもう少しきつくできます?
坂本:今のリブ自体を度詰めすることで若干解消できると思いますが、大幅にリブのテンションを変えたい場合はリブ素材から選び直すことになります。その場合、懸念点として素材が変わるのでリブとボディの色が若干ずれます。修正の方向性、どうしましょうか?
四方さん:なるほど。うーん、リブとボディの色はマッチングしている方が良いので現状の素材で限界まで度詰めしてもらいましょう!
坂本:レイヤードした際、他に気になる箇所はありますか?
四方さん:アームホールが少し窮屈ですね。インナーの袖周りはぐるり(円周)で2.5cm短く、アウターは逆に1.5cm長く、着丈も、それぞれ2cm差でつけて最終的には1cm、首と裾からインナーTが見えるバランスにしたいですね。
mm単位での各箇所への修正。ドレス界隈随一のスタイリストらしい細かすぎるこだわり! これらは、すべてシャツなどインナーとして着たときのトータルバランスへの考慮。
坂本:アウターTの袖付けに関してはどうでしょう?
四方さん:予想よりもスポーティーな印象で上がってきたのでここは思い切って変更しましょう。もう少しスタンダードな印象かつ、英国的な雰囲気があるものが良いのでラグランスリーブにしましょう。
坂本:ラグランスリーブはイギリスのトレンチコートでもよく見る袖付けですし、ラグラン男爵が名前の由来と言われているので合っていると思います。
坂本:ちなみに白の最終的な色出しについてですが、真っ白と、少し黄味がかった白どちらが良いですか?
四方さん:今回は真っ白でいきましょう。やっぱり白Tといえば、僕的にもこのコントラストのきいた色がしっくり来るので。
坂本:次はコットンチーフの配色ですが、厳密な色出しをするために一度、パントーンの色見本帳から配色をピックアップしなくてはでして。
四方さん:えっ、こんなにあるんですか? というか、全部違う色なんですか?(笑) こんなたくさんの中から決めるのか……。
見本帳の配色は数千パターンを越え、選んだ配色に限っても、類似色でも色の濃淡が目視で分かりにくいものが10通り以上……。
時間をかけて四方さんが吟味したものは、ブラウン、オレンジ、ネイビーで、いずれもくすんだ色合いのものをチョイス。英国調を意識しつつ、スタイリングにも取り入れやすい、程よいアクセントへ着地するように選びました。
ゴールの見えた2ndサンプルをさらに詰める
「マルチパックTシャツ」の2ndチェック。前述した指示通りに近い形の仕上がりにホッと一息。前回できなかったボディのサイジング調整や修正した箇所を再度着ながら微調整していきます。
四方さん:アウターTの天巾、もう少し前下がりを広げるよう調整しましょう。もうちょっとだけ、白い面積を見せられたら良いなと。3〜5mmくらいかな……やはりスペックではなく、着たときに1cmのバランスで見えるようこだわりたい!
そして最終のボディのサイジングを行う際に課題が。今回指示に近いサイジングでサンプルが上がってきたものの、最終的にベースとするスペック基準を洗い前にするか洗い後にするか?また、製品洗い加工をするか?しないか?という点です。
四方さん:もし洗いをかけるとなると、販売価格のバランスってどうなります?
坂本:製品を洗う工程のほか、整えるプレス作業などもあり、さらに今回はパックTなのでその工賃も2枚分になります。この工程をプラスすると販売価格は上がってしまいますね……。
四方さん:そうしたら、洗い後の縮みを考慮して大きく作るよう調整しましょう!現在のサンプルを洗って縮率を出して、洗い後に理想のサイズになる様にできればと。 価格面も僕らがこだわることの一つですので。
坂本:コットンチーフは修正点ありますか?
四方さん:意外と紺の色味が地味だったかなと感じるので、原型に近いイエローを取り入れてみましょう。でも発色は抑えめで。全体的に馴染みやすいように、くすんだ色が良いです。また平面的に見えるので、線が単純にクロスするのでは無く、提案いただいた綾織のような表情をつけるのも良いかもしれません。プリントで綾目を表現するというのが面白いですね。
ついに完成した、理想的なマルチパックT!
インナーT
インナーに着る最適な薄さとフィッティング、その用途はこなせつつも、一枚で着ても透けにくくピッタリすぎない、絶妙なインナーTに仕上がりました。丸胴やタコバインダー仕様により、縫い目が当たらないことも考慮しました。また、インナーとして着用した際のネックバランスにもこだわりました。
アウターT
程よいゆとりのあるサイズ感に、綺麗な発色のネイビー、そしてニットのような見え方にもなる裾リブ。ラグランスリーブやバインダーネック、袖口の2本針など細部までこだわり、アウターというキーワードに相応しい、洗練された印象のTシャツに。
コットンチーフ
肌触りの良いガーゼ生地のコットンチーフ。英国感溢れるタータンをベースに、イエローとレッドを差し色にしつつ、全体をくすみカラーでまとめました。52.5㎝×52.5㎝の正方形チーフなので、ネッカチーフのような使い方から、ライトアウターにポケットチーフとしても挿せるちょうど良いサイズ感。風呂敷のようなパッケージ使いにもおすすめ。
BRITISH MADE ー マルチパックTシャツ ¥16,500-(税込)
四方さん:……うん! 全体的に良い感じ! こんな感じで良いんじゃないでしょうか!
坂本:ネックも狙い通りのバランスになりましたね。フィッティングもアウターTに関しては程よいリラックスフィットになっており、今まさに着たいと思えるサイジングではないでしょうか。身幅にゆとりはありますが、長すぎない着丈や袖丈にすることでオーバーサイズ感がないことや、ネックの開き具合や裾のリブの印象などにより上品な印象に仕上がっているのも良いですね。袖もサドルショルダーからラグランスリーブに変更することでスポーティーさも軽減され、使いやすく好印象な気がします。インナーTも生地、サイズ、仕様を考慮した絶妙なバランスに仕上がりましたね。こちらは一時期あったシャツのインナー用下着とも違いますし、シャツの下に着る際に厚すぎず、薄すぎず丁度良い生地感だと思います。着用時にストレスのない仕様も、インナーとして重宝しそうです。 今回も長い道のりでしたが、ようやく出来上がりましたね!
長編となる開発秘話はいかがでしたでしょうか。実際は、まだまだ書ききれない経緯や、打ち合わせなどもありましたが、少しでもブリティッシュメイドのプロジェクトのプロセスをお楽しみいただけましたら幸いです。
銀座店 Instagramアカウント:@britishmade_ginza