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あらゆる世代にシンプルなデザインの上質な服を
アレクサンドル・マテュッシ Alexandre Mattiussi
Founder and Creative Director of AMI PARIS
ハートのAを組み合わせロゴを超えたロゴ
「僕をファッションに導いたのは、ダンスに見出すのと同じ喜びだと思います。つまりスペクタクル。幕が開く、強いライトが照らす、客席に観客がいる、という公演のような。まず最初にティエリー·ミュグレーやジャン·ポール·ゴルチエといったフランスのデザイナーたちのファッションショーが僕を興奮させたんです。今もそうなんですよ。服を作って、それを華やかな装置の中で発表する。これは魔法の瞬間なんです」
子供時代はバレエを習い、ダンサーを夢見た「AMI PARIS(アミ・パリス)」の創業者でクリエイティブディレクターのアレクサンドル・マテュッシ。
〈マレ地区のオフィスは現在改装中。仮住まいの仕事場に、ヨーガン·テラーの写真やサミュエル·サルセドの彫刻など自宅からお気に入りのアーティストたちの作品を持ち込んだ。シンプルでエレガントに装う彼。ブランドの最強アンバサダーといえそうだ。〉
大勢のファッションデザイナーを輩出しているパリのデュプレ校を選んだ時点で「自分はモードを職業にするのだ!」と心に決めていたという。いくつかのブランドを経由して学ぶべきを学び、「自分のストーリーを語る時が来た。今やらなければ、一生しないだろう。とにかく試してみなければ」とブランドを設立した。フランス語で友達を意味するAMI(アミ)は、あるとき自らの名前のアルファベットの中に見つけた言葉で、いつか自分のブランドに冠しようと決めていたものだ。
〈チュイルリー公園に近いアルジェ通りに6年半前に開いたブティック。世界各地のアミ パリスのブティックと同じくSTUDIO KOが内装を手がけた。〉
〈外観にアレクサンドルの名前を掲げ、入り口ではアミ ドゥ クールのドアマットが彼の家へようこそと迎えてくれる。〉
そして「アミ パリスはどんなブランドなのか?」と創業前に頭の中にさっと書きあげた基本は、今も変わっていない。それは幸せの場であること。自分が楽しめる場であること。自分が着たい服であること。友達が着られる服で買える服であり、周囲の人たちと彼がモードでつながれること。シンプルかつクラシックで気取りがなく、良いプロポーション、製造への気配り、そして適正な価格。そうすらすらと語る彼は、多くのポートレート写真で見せる幾分シリアスなポーズとは反対に、誰とでも気軽に言葉を交わす気さくな男性だ。
「僕は友好的で愉快で寛大です。これがブランドの周囲に良いエネルギーを生むんです。だからこそ大勢が僕のこのアミ パリスというストーリーに参加し、進化し、大きく成長することができました。着たい!という気持ちにさせる、上質な素材で作られたシンプルだけどアリュール(気品)があり、他のどこにも見つけられない服。これはおばあちゃんや両親の作る料理にも似ている。素朴だけど、とってもおいしいというような」
ブランドの人気に拍車がかかるようになったのは、ハートとアルファベットのAを組み合わせた’’アミ ドゥ クール’’と呼ばれるロゴが登場した4年前のこと。パリの街をスクーターで駆け抜けるたび、アレクサンドルはこのロゴが付いたアイテムを着た何人もとすれ違う。
〈ニットの胸元にあるロゴがアミ ドゥ クール〉
「そのたびに幸せな気持ちになり、成功したという確信が得られます。服は着てもらうためにあるというのが僕の考えだから。クライアントと僕がロゴによってある種スピリチュアルにコネクトするんです。ちなみにこのロゴは小さい頃から僕がデッサンやメッセージにしていたサインなんですよ。「ママ、大好き! 」と書いた後、イニシャルのAにハートを描いて、それを塗りつぶしていました。ナイキと同じくブランド名が書いてないロゴなのに、それがアミ パリスと人は認知する。これは驚くべきことです」
それはバッグの留め具になったり、クリスマスツリーのオーナメントボールになったり。様々に活用され、“ブランドが続く限り成功が約束されたロゴを超えたロゴ’’と最近アートデザイン関係の権威が称えたそうだ。
パリの街を愛する彼。時にツーリスト、時に子供の視線で、飽くことなく日々街を眺めていると話すアレクサンドルを触発し続けるパリは、今やメゾンのストーリーテリングの一手法にもなっている。3月中旬にオープン予定のGINZA SIX店で出合うことになる『大脱走』というテーマのもと生きる喜びを讃える春夏コレクションが、ロックダウンで放置されたチュイルリー公園の遊園地をイメージしたセットの中で撮影され、次の秋冬コレクションのコンセプトはメトロを中心に展開……というように。そうして発表される服は世代を限定することなく、大勢の人々に向けられている。
〈左:GINZA SIXのオープン時に並ぶ、6分間の短編映画として紹介されたコレクション『L’Echappée Belle(大脱走)』は。ロックダウンから解放され、夜の街で久々に再会した仲間たちが陽気に楽しむ明るいエネルギーにあふれている。ユニセックスジャケット 113, 300円 ·ペールピンクのパンツ 65,450円/右:ユニセックスジャケットコート 171,600円·ラムレザーブラ 55,000円·ビスコースキャンバス エフォートレスパンツ 60,500円。アンクルストラップ付きトングサンダル 57,200円〉
「一握りの特定の人に向けた服作りは興味がないし、現代的とは思えない。いつも言ってるのはアミ パリスは17歳から77歳までの服であるということ。大人はニットを買うかもしれない。17歳の子供はTシャツやスウェットから始めて、それからシャツ、ジーンズ、コートなどが買えるようになって……。GINZA SIXにやってくる若い世代も、これからアミ パリスと出合い、ブランドも彼らとともに一緒に未来に向かって成長していくことになる。東京は大好きな街なので、GINZA SIX のような美しい場所に店舗ができることにとても興奮しています」
アミ パリスというブランドを当初から受け入れ、理解してくれたのが日本人だという。2年前に24時間滞在したのが最後となった日本。いつか1~2年、暮らしてみたいと夢見ている。
アレクサンドル·マテュッシ
1980年生まれ。ノルマンディー出身。パリのデュプレ校でモードを学ぶ。ディオール、ジバンシィ、マークジェイコブスのメンズラインで経験を積み、2011年にAMI PARISを設立する。2013年にはフランスの権威あるファッションアワードであるANDAM のグランプリを受賞。
IG: @alexandremattiussi9
Text: Mariko Omura
Photos: Julie Ansiau
Photo Copyright: AMI PARIS
Edit: Yuka Okada(81)